長寿研究の用語集
記事に出る用語を、一次資料の出典つきで短く定義しました。研究の段階(人で確かめられているか)も書いています。
生物学的年齢
生まれてからの年数(暦年齢)とは別に、体の状態から見積もった老化の進み具合を年齢の形で表す指標の総称。DNAのメチル化や血液の検査値などから算出する方法が研究されている。ただし何を測れば老化を表せるかについて、合意された基準はまだなく、検証と標準化が課題とされる。診断ではなく研究上の目安であり、数値の変化が健康の改善を意味するかも確かめられていない。
出典: Biomarkers of aging for the identification and evaluation of longevity interventions(Cell・2023)
エピジェネティッククロック
DNAのメチル化(遺伝子の働きを調節する化学的な目印)のパターンから年齢を推定する計算式。2013年にHorvathが51種類の組織・細胞、約8,000検体から作った式は、実年齢との相関0.96、誤差の中央値3.6年と報告された。一方で組織によっては精度が低い。生活習慣で値が動くか、動いた結果が健康にどう関わるかは研究の途中で、診断を目的とした検査ではない。
出典: DNA methylation age of human tissues and cell types(Genome Biology・2013)
テロメア(テロメア検査)
染色体の末端にある、DNAを守る繰り返し配列。細胞分裂のたびに短くなる傾向があり、老化との関わりが研究されてきた。成人87人の研究では白血球で年に約26塩基対の短縮が報告されたが、長さの個人差は大きく、年齢で説明できたのは8〜18%だった。テロメア検査は長さの目安を見るもので、将来の健康を判定する診断ではなく、長さを変える方法が人で確かめられたわけでもない。
出典: Telomeres shorten at equivalent rates in somatic tissues of adults(Nature Communications・2013)
山中因子(部分的リプログラミング)
成熟した細胞をiPS細胞(多能性をもつ細胞)に戻す4つの遺伝子(Oct4・Sox2・Klf4・c-Myc)の総称。これを短期間だけ繰り返し働かせる部分的リプログラミングで、早老症モデルのマウスの老化の指標が改善し、寿命が長くなったと2016年に報告された。ただしマウスでの結果で、人で同じことが起きるか、安全に使えるかは分かっていない。
出典: In Vivo Amelioration of Age-Associated Hallmarks by Partial Reprogramming(Cell・2016)
寿命を延ばす研究(ヘルススパンと寿命の違い)
寿命は「どれだけ長く生きるか」、ヘルススパン(健康寿命)は「健康に過ごせる期間」で、同じではない。WHOのデータを使った2024年の研究では、2019年の世界で両者の差はおよそ9〜10年と報告された。老化研究は動物で寿命や健康な期間を長くする介入を探しているが、動物の結果が人に当てはまるかは分かっておらず、人での確認には長い追跡が要る。
老化細胞(セネッセンス)
ストレスなどで分裂をやめ、体内に残る細胞。加齢とともに増え、炎症に関わる物質を出す。がん化を抑える役割もある一方、組織に悪い影響を及ぼす可能性が議論されている。2016年のマウス実験では、この細胞を除くと中央値の寿命が約24〜27%長くなったと報告されたが、除去が部分的で、人で同じ結果になるかは確かめられていない。
出典: Naturally occurring p16Ink4a-positive cells shorten healthy lifespan(Nature・2016)
セノリティクス
老化細胞を選んで取り除くことを狙う薬の総称で、ダサチニブとケルセチンの組み合わせが代表例。2019年、糖尿病性腎臓病の成人9人に3日間投与した対照群のない予備的な試験で、脂肪組織や皮膚の老化細胞の目印が減ったと報告された。追跡は11日間のみで、健康上の利益は示されておらず、著者自身も臨床試験の外での使用に注意を促している。
サーチュイン
NAD+を必要とする酵素のファミリーで、哺乳類にはSIRT1〜SIRT7の7種類がある。核・細胞質・ミトコンドリアなどに分かれて存在し、代謝、炎症、酸化ストレス、オートファジーなどに関わるとされる。働きは状況によって異なり、結果が食い違う報告もある。サーチュインに働きかける介入の人での反応にはばらつきがあり、健康や寿命への影響は定まっていない。
出典: The sirtuin family in health and disease(Signal Transduction and Targeted Therapy・2022)
NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)
細胞の中でエネルギーの受け渡しなどに使われる補酵素で、サーチュインなど多くの酵素の働きにも必要とされる。NMNはその材料として研究されている。2021年、前糖尿病で肥満または過体重の閉経後女性を対象にした10週間の二重盲検試験で、NMN摂取後に筋肉のインスリン感受性の改善が報告された。老化そのものへの影響を示した結果ではなく、対象も限られる。
出典: Nicotinamide mononucleotide increases muscle insulin sensitivity in prediabetic women(Science・2021)
オートファジー
細胞が自分の中の不要なたんぱく質や傷んだ小器官を膜で包み、リソソームで分解して再利用する仕組み。大隅良典氏が酵母でこの仕組みに関わる遺伝子を見つけ、2016年にノーベル生理学・医学賞を受けた。加齢や神経変性疾患、がんとの関わりが研究されているが、がんでは守る側にも進める側にも働くなど役割は状況で変わる。人で促す方法の健康への影響は確かめられていない。
出典: Autophagy in health and disease: From molecular mechanisms to therapeutic target(MedComm・2022)
ブルーゾーン
100歳を超える人が多いとされる地域(サルデーニャ島の一部、コスタリカのニコヤ半島、イカリア島など)の通称。ニコヤの研究では約1万6,300人の高齢者を追い、男性の死亡率比は0.80だったが、女性では差がなく、地域を離れた人では消えていた。観察研究で、食事・遺伝・環境のどれが関わるかは確定しておらず、習慣をまねして長生きできると確かめた試験ではない。